小説で「曳家」を知って入社したら、杭の担当だった。30歳の技術営業が見ている、家が建つ前の地面の話

新築の沈下を防ぐ地盤改良の杭工事を管理する恩田組の技術営業

恩田組で、新築の家が建つ前の土地に杭を打って地盤を補強する工事を担当しているAさん。30歳、入社して2年8カ月になります。

地盤が弱いまま家を建てると、建てたあとに家が沈んだり、一部だけが沈んで傾いたりする「不同沈下」が起きることがあります。そうした沈下を起こさないために、家を建てる前に行うのが地盤改良です。

お客さんはおもにハウスメーカー。見積から現場の管理まで、一つの工事を最初から最後まで受け持つ「技術営業」です。

入社のきっかけから、失敗したこと、沈下を防ぐために現場で必ず見ていることまで、話を聞きました。

新築の沈下を防ぐ地盤改良の杭工事を管理する恩田組の技術営業
恩田組の杭工事担当の技術営業Aさん

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小説で知った「曳家」。入ってみたら、杭の担当だった

――恩田組を知ったきっかけは?

「曳家っていう仕事を、小説で読んで知ったんです。内藤了さんの『鬼の蔵』っていう本で。そのあと求人サイトでたまたま恩田組を見つけて、申し込みました。そしたら、杭の仕事でした(笑)」

『鬼の蔵』は、講談社タイガから出ている「よろず建物因縁帳」シリーズの1作目。曳家の職人が、古い建物にまつわる因縁を解いていく怪異譚です。

小説の曳家は因縁を祓っていましたが、Aさんが今向き合っているのは、家が建つ前の「地面」です。

――今は、どんな会社だと説明していますか?

「家が沈下しないように、建てる前に地盤を補強する工事と、曳家をやっている会社、ですね」

恩田組は、建てたあとに沈下して傾いた建物を水平に戻す「沈下修正」も手がけています。沈下した家を直す仕事と、そもそも沈下を起こさないための仕事。Aさんが担当しているのは、その「起こさない」側です。

1年半の現場から、1〜2日の現場へ

前職はプラントの施工管理でした。

「プラントのときは、1つの現場に1年半くらいいました。杭は、1つの現場が1〜2日くらいで終わります」

同じ施工管理でも、時間の流れがまったく違います。

仕事の流れはこうです。ハウスメーカーから電話で依頼を受ける。資料をもらって、地盤調査をするか、すでに調査データがあればそれを参考にする。沈下を防ぐための工法を考えて見積を出す。図面ができたら現地を調査して、材料を発注し、段取りを組んで、現場を管理する。

ときには、モデルハウスに顔を出して、挨拶しながら最近の様子を聞くこともあるそうです。

見積の依頼は、多い週で10件ほど。波があるので、月にならすと10〜20件ほどになります。

現場はたいてい1日で終わるので、多い日は1日に3件ほど回ります。

「朝は現場に直行します。作業の流れを見て、始まるまでいて、杭が支持層まで入るところを何本か見る。問題なければ事務所に戻って、見積や連絡をしています」

扱う工法は、鋼管杭、柱状改良、表層改良、REP工法です。

全部わからなかったから、とにかく聞いた

――入社したとき、困ったことは?

「全部わからなかったです。上司に聞いたり、職人さんにとにかく聞いたり。自分でも調べたり、読んだりしました」

自分で杭を打つ立場ではありません。それでも、工事の流れを覚えるために、最初は作業を手伝いながら覚えたそうです。

「直属の上司が細かく教えてくれました。勉強する時間も、けっこうもらえました。教えるのが好きな人たちなので、聞けば聞くほど、どんどん教えてくれるようになりました」

沈下を防ぐ工法は、地面の中を見て決める

――工法は、何を見て決めていますか?

「支持層の深さと、地盤の状態ですね。腐植土があるかとか。それで摩擦で支える杭にするのか、支持層で支える杭にするのか。あとは費用、施工のしやすさ、現場の状況。施工機械がそもそも入れるかどうかも見ます」

地盤調査にも使い分けがあります。

「住宅は基本的にSWS(スウェーデン式サウンディング試験)です。でも大きい建物や、支持層が深い場合は、ボーリング調査が追加で必要になることが多い。費用が何倍も違うので、まずはSWSで状況を確認します」

沈下が起きやすい土地もあります。厚めに盛り土をした土地では、その土が時間とともに締まって沈下するので、それに対応できるように鋼管杭を打つことがあります。新しく擁壁をつくる土地も、いったん土を出して埋め戻すぶん地盤が弱くなり、沈下を防ぐために杭が必要になるケースがあるそうです。

地面の中は、想定どおりにはいかない

それでも、地面の中は掘ってみるまでわかりません。

「支持層が想定より深くて材料が追加で必要になることもあるし、想定より浅くて、材料が大量に余ることもあります。そういうときは、すぐに担当の方に連絡して相談します」

給水車を、急いで呼んだ日

――失敗したことは?

「柱状改良は水が要るんです。なのに、現地調査のときに水道の確認を見落としてしまって。急いで給水車を手配しました」

柱状改良は、ふだんあまり担当しない工法でした。

「それからは、普段やらない工法のときほど、現地調査で気をつけるようにしています」

もう一つ、悔しかった話があります。

「施工が迫っている現場で、調整しているあいだに、ほかの業者さんに入られてしまったことがあります。連絡のスピードが足りなかった。今は、とにかく早く連絡するようにしています」

沈下させないために、見えなくなる前に確かめること

杭は、家が建てば二度と見えなくなります。それでも、何十年も家を支え、沈下を防ぎ続けなければなりません。

――現場で必ず確認していることは?

「杭が支持層にしっかり入っているか。それを地盤データと照らし合わせて、矛盾がないか。地中に障害物がないか。傾斜地なら、地形をよく見ます」

――記録は、どこまで残していますか?

「全部残します。今後のためにもなるし、お客さんの安心にもつながるので」

ハウスメーカーの担当者に恩田組を選んでもらうときも、鋼管杭がなぜ信頼できるのかを、詳しく説明するようにしているそうです。

上から言わないから、大事なお願いを聞いてもらえる

現場で杭を打つのは、職人さんたち。Aさんより年上の人がほとんどです。

「気を使いすぎず、積極的に話します。立場としてはこちらが指示する側なんですけど、お願いするときはお願いする。でも言うべきことは言う。それで、かわいがってもらっています」

「普段から上から言わないようにしているので、大事なお願いは聞いてもらえるんです」

無理をお願いしたときは、別のところで調整して、職人さんが納得できるようにする。自分も材料を運んだり、差し入れを持っていったり、できるだけ現場に顔を出すようにしているそうです。

現場は住宅地がほとんど。近所への気配りも欠かせません。

「朝の早い時間は大きな声を出さないように注意しています。学校が近い現場では、警備員さんを呼んでいます」

更地に、家が建っているのを見たとき

――大変なのは、どんなときですか?

「見積が溜まりすぎて、こなせなくなるときですね」

――うれしいのは?

「更地だったところに、しっかりした家が建っているのを見たときです。分譲地だと、自分が杭をやった区画に、次から次へと家が建っていくんですよ。それを見ていると、うれしいですね」

自分が担当した土地に家が建ったのを、見に行ったこともあるそうです。

「更地に家が建っていると、感動します」

迷っている同世代へ

――建設業界に興味はあるけど迷っている人に、一言お願いします。

「建設業界って、きつそうなイメージがあると思うんです。でも、職人さんも周りの人もあったかいです。やってみると、意外と居心地がいい。わからないことを素直に聞けば、なんでも教えてくれます」

「人手不足なので、40代まで若手って言われて、大切にしてもらえますよ」


小説で曳家を知ったAさんは今、家が沈下しないように、建つ前の、誰にも見えなくなる地面を毎日確かめています。

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