
耐震性能の基礎知識「層間変形角と家の損傷の関係」

震度によって建物損傷の目安を測ることはできませんが、今回のテーマである層間変形の角度によって建物損傷の目安を測ることができます。層間変形の角度ですから「層間変形角」と呼ばれます。層間変形角はrad(ラジアン)という単位で表します。
前回のおさらいですが、地震などの負荷による建物の変形を「層間変形」と呼びます。何が変形するかというと柱と壁です。それに伴って梁も変形しますが、角度が付くのは柱と壁です。壁も柱に連なって変形するので、実際には柱が変形します。厳密には、層間変形は柱そのものの傾きではなく、上下階の床の水平方向の相対変位を指しますがわかりにくいので、ここでは「地震の横揺れによって建物が変形し、柱が傾く。」とします。 柱は根本で土台と繋がっていて、地震時にはそこが支点となり前後左右に傾きます。傾くので角度が付きます。その角度によって建物がどのくらい損傷するのかの目安を整理してみます。
層間変形角と建物の変形
壁の亀裂が発生し始める領域 層間変形角1/300~1/120 rad程度 角度0.19~0.48°
損傷が進行し、補修が必要となる領域 層間変形角1/60 rad程度 角度0.95°
大きな損傷・耐力低下が問題となる領域 層間変形角1/30 rad程度 角度1.91°
倒壊に対する安全限界の指標の一例(倒壊が危惧される領域) 層間変形角1/15 rad程度 角度3.81°
これは日本損害保険料率算出機構の住宅耐震性能研究、文化庁の耐震診断資料、防災科学技術研究所の実験報告を根拠に纏めたもので、層間変形の説明でしばしば使われる指標です。この角度に達したからといって、全ての建物に同じような損傷が起こるとは限りません。あくまでも目安です。

塑性限界値
層間変形角についてもう一つ重要な角度があります。 まず層間変形の3つの領域から説明します。 弾性域:荷重を取り除くと概ね元に戻る。(地震の揺れがおさまると変形が戻る) 塑性域:荷重を取り除いても変形が残る。(揺れがおさまっても変形したまま) 終局限界:耐力低下や破壊が進み、構造安全性を維持できなくなる限界。
この塑性域がとても重要です。層間変形角が、この塑性域に達すると傾いた柱は元に戻りません。つまり傾いたまま次の地震を待つことになります。それが繰り返されるとどうなるでしょう。
構造設計の専門家がよく口にされるのが、「例え震度7の地震であろうとも本震一発で家は倒れることはまず無い」ということです。大地震で家が倒壊したように見えても、実はそれまでの地震で家はダメージを受けていた、つまり傾いていたということです。
この塑性域を整理すると以下のようになります。 層間変形角1/200 rad 角度0.286°耐力壁の仕様によっては塑性変形が始まる。 層間変形角1/150 rad 角度0.382°一部の耐力壁で塑性変形が進行する。 層間変形角1/120 rad 角度0.477°損傷限界評価で用いられる代表的な変形角。 層間変形角 1/60 rad 角度0.955°塑性変形が進行し残留変形が問題となる領域。
ただし、これらは一律の判定基準ではありません。特に木造住宅では、柱自体が曲がって塑性変形が始まるよりも、筋かいの座屈、接合金物の変形、釘の滑りなどが先行することがあります。木造住宅の塑性変形開始角度には、全国共通の単一数値はありません。筋かい、構造用合板、接合金物などの仕様によって異なります。

地震があったら点検は必須
日本の耐震技術は優れていて、建築基準法に則って建てられた家であれば、これまで日本が経験した地震で倒壊することは、絶対とは言えませんがまずありません。問題はダメージの蓄積。何度も地震が発生する地域では、塑性変形が起こっていないかの点検を行うことをお勧めします。 ちなみにですが、制震ダンパーは塑性変形を抑制する装置です。この制震ダンパーの中には震度1から作動するものがあります。つまり震度1でもダメージは蓄積する可能性があるということを物語っています。小さな地震でも侮るなかれ。
家が傾いているようだけど?それは不同沈下かもしれませんが、塑性変形の可能性もあるということをお忘れなく。

