
床上浸水のあと、床や土台はどうする?「揚家工事」という選択肢【中編】

前編では、床上浸水した木造家屋を再生する「揚家(あげや)工事」の基本的な流れと、雨天時の判断についてお伝えしました。今回は、数字と具体的なエピソードから、この仕事の奥行きをご紹介します。
39年で400〜500軒
私たちがこれまで手がけた揚家・曳家(ひきや)工事は、実に400〜500軒。
その中でも部長が特に印象に残っているという案件が、こちらです。
「基本は1m前後の高さまでしか上げないのですが、あるとき『建物の下に杭打機を入れたいから、3mまで上げてほしい』という依頼があったんです」
通常の3倍の高さ。当然、リスクも比例して増えます。
「高く上げれば上げるほど、強風対策や地震対策が大変になります。建物を支える仮受け台の面積や数量、配置を、高さに合わせて増やしていく必要があるんです」
1mの工事と3mの工事は、見た目の作業内容は同じ「持ち上げる」でも、支える構造の緻密さがまったく違います。この感覚は、何百軒も手がけてきたからこそわかること。
豪雨以外にも広がる、揚家工事のニーズ
近年の傾向として、部長はこう語ります。
「曳家よりも、揚家の依頼が最近は増えています。理由の一つは、神社仏閣や古民家を残すための耐震補強・改修工事が増えていることです」
「文化財としての価値を保つためには、基礎部分から補強する必要があります。だから、建物を動かさずにその場で持ち上げて、下の基礎をしっかり作り直す、という選択になるんです」
豪雨による床の入れ替えも、神社仏閣の耐震補強も、技術としては同じ「建物を持ち上げる」ことに行き着きます。
私たちが長年培ってきた揚家・曳家の技術は、災害復旧という切実なニーズと、文化財を未来に残すという長期的なニーズの、両方を支えることにつながっています。
後編では、この仕事を続けてきた部長の「仕事観」と、お客様からいただいた言葉についてお伝えします。
